山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信

変異ウイルスの影響は?

ワクチン効果に対するウイルス変異の影響

ウイルスの変異がワクチンの効果に与える影響について、実際に接種を受けた人での結果は査読付きの論文では報告されていません。

査読前のデータとしてはファイザー社からの公表データがあります。
4月1日のプレスリリース
3月11日のプレスリリース
によると、イギリス型や南アフリカ型の変異が蔓延した、イスラエルと南アフリカにおける臨床試験結果の解析から、これらの変異型ウイルスに対しても高い感染予防効果が示されています。またワクチンの効果が、接種後6カ月においても続いているとしています。しかし、ワクチンを開発・販売している企業からの報告であり、他の研究者による検証(査読)は受けていませんので、独立した
検証が必要です。

実験室でのデータはいくつかの論文が査読後に公表されています。いずれもイギリス型変異に対してはファイザー社製のワクチンは有効である可能性を示唆しています。南アフリカ型やブラジル型に対しては効果が減少する可能性があり、さらなる解析が必要です。

3月11日にNature誌で公開された論文
Sensitivity of SARS-CoV-2 B.1.1.7 to mRNA vaccine-elicited antibodies (nature.com)
ではファイザー社製のワクチンを2回接種した人の血清を用い、イギリス型の変異を人工的に導入したウイルスに対する中和活性を測定しています。その結果、変異により中和活性が約1/2に低下しました(1.9分の1)。さらにイギリス型の変異に加えてE484Kと呼ばれる変異を導入すると、中和活性は約1/7に低下しました(6.7分の1)。感染して回復した人の血清の中和活性は、イギリス型変異+E484Kにより11.7分の1に低下しました。E484K変異は、南アフリカ型やブラジル型の変異ウイルスにみられる変異ですが、イギリス型変異ウイルスにさらにE484K変異が加わる事例がイギリス国内で報告されており、注意を要します。

Neutralizing Activity of BNT162b2-Elicited Serum | NEJM
この論文は
2月17日に紹介した論文(速報)の続報です。従来のウイルスに、変異株に存在する多数の変異を人工的に導入しています(図1)。そして、ファイザー社製ワクチン2回接種後の15名から採取した血清を用い、それぞれの変異型ウイルスに対する抑制効果(中和活性)を測定しました(図2)。その結果、ワクチンを接種した人の血清は、すべてのウイルスに対して十分な中和活性を示しました。南アフリカ型の変異を導入したウイルスに対しては中和活性の減少が認められましたが、それでも十分な抑制効果があると結論づけています。

この論文の結果は、人工的に作成したウイルスに対する効果を実験室で測定しています。実際の人への感染においても、ワクチンが変異型ウイルスに対して効果があるかは、今後の研究が必要です。ウイルスに対する免疫としては、抗体によるものとTリンパ球によるものの2種類がありますが、今回の研究では抗体の中和活性のみを調べています。ファイザー社製のワクチンはTリンパ球も活性化すると考えられており、変異型ウイルスのTリンパ球に対する影響も今後の研究が必要です。

(2月17日に紹介した速報)
Liu et al., Neutralizing Activity of BNT162b2-Elicited Serum — Preliminary Report. New England Journal of Medicine 2
17日オンライン
Neutralizing Activity of BNT162b2-Elicited Serum — Preliminary Report | NEJM

この論文の主な著者であるテキサス大学の研究チームは2月に別の論文も報告しています
Neutralization of SARS-CoV-2 spike 69/70 deletion, E484K and N501Y variants by BNT162b2 vaccine-elicited sera | Nature Medicine
イギリス型、南アフリカ型、ブラジル型にはそれぞれ数多くの変異が存在しています(図1)。しかしこの論文では3つの変異株に共通の変異(N501YとD614G)、南アフリカ型とブラジル型に共通の変異(E484K)、イギリス型に特徴的な変異(Δ69-70)に注目し、ワクチン接種者の血清がどれくらいの中和活性を示すかを調べています(図3)。その結果、N501Y、D614G、Δ69-70変異をもつウイルスに対してもワクチン接種者の血清は強い中和活性を示しています。E484K変異に関しても中和活性は維持されていますが、変異がないウイルスに比べると20%程度減弱しています。

図1 本論文で調べられた変異
図2 ワクチン接種後血漿の変異株に対する中和活性
図3 Nature Medicine誌のデータ
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