山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信

第5波で猛威を振るうデルタ変異

第5波で猛威を振るうデルタ変異

5月11日、インドから広がった新しい変異型ウイルスを、WHOがVOC(Variant of Concern、注視すべき変異)に指定しました。
同変異型ウイルスには、3種類のサブグループ(B.1.617.1、B.1.617.2、B.1.617.3)があります。

B.1.617.1 B.1.617.2 B.1.617.3
G142D変異
L452R変異
E484Q変異
P681R変異

5月31日、WHOはB.1.617.1をカッパ変異と、B.1.617.2をデルタ変異と命名しました。

インドでは当初、イギリスから広がったB1.1.7株(アルファ変異)と共にカッパ変異(B.1.617.1株)が主流でしたが、現在ではデルタ変異(B.1.617.2株)が増加しています。イギリスでは、定期的に変異ウイルスの感染状況科学的データリスク評価を公表しています。今年初めはアルファ変異が主体でしたが、現在では新規感染の大部分がデルタ変異となっています(図1)。リスク評価では、デルタ変異は、アルファ変異や従来型のウイルスと比較して、感染力が高く、ワクチン効果が減弱することはほぼ間違いなく、病原性も高い可能性があるとしています。家庭内での2次感染の発生頻度を見ると、デルタ変異は、アルファ変異に比べて、約2倍の感染力があることが示唆されています(図2)。世界的に見ても、アジア、オセアニア、北米、アフリカでデルタ変異ウイルスが急拡大しています。日本でも、東京都では8月中旬のデータで、90%以上がデルタ変異株となっています。アメリカCDCの内部文書によると、1人の感染者が何人に感染させるかという基本再生産数(R0)は、新型コロナウイルスの従来型は2~3程度であったのに対して、デルタ変異は5~9と、水痘並みに高くなっているとしています(図3)。この内部文書はワシントンポストが入手し7月29日に報道しました。アルファ変異は従来型の1.5倍、デルタ変異はアルファ変異の2倍の感染力と推定されていますので、この5~9というR0の推定値は妥当と考えられます。私が知る限り、人類が経験した呼吸器疾患のウイルスで、最大の感染力です。

デルタ変異ウイルスの病原性については、スコットランドから報告されたLancet誌の論文、および英国から報告されたLancet Infectious Diseases誌の論文において、入院率がアルファ変異ウイルスの約2倍であると報告されています。ハムスターへの感染実験から、従来株よりも病原性が高いという査読前の報告もあります。

ワクチンの効果に関しては、上記のLancet誌の論文でファイザー社製ワクチンの2回接種のデルタ型に対する感染抑制効果は79%と、アルファ型に対する92%の効果と比べると少し低いものの、依然として高い効果があることが報告されています。
またイングランド公衆衛生庁も6月14日に査読前のデータを公表しています。これによると、ファイザー社製のワクチンは、デルタ型変異ウイルスによる入院を、2回接種後は96%、1回接種でも94%、減少させたとしています。同庁は、ファイザー社製ワクチンの2回投与により、デルタ型変異ウイルスの発症を88%予防したという有望なデータを5月20日にも公表しています。
一方、イスラエル保健省は、ファイザー社製ワクチンがアルファ変異株の感染や発症を抑える効果は90%程度であったのに対して、最近、同国で拡大しているデルタ変異株の感染や発症を抑える効果は66%程度に低下していると7月5日に発表しています。入院を防ぐ効果は90%以上と高い効果を維持しているとしています。7月6日には根拠となるデータを公開しました。重要な部分がヘブライ語のため完全には理解できませんが、6月5日までは94%以上であったワクチン効果が、6月6日から7月3日の期間においては、64%と低下しています。同庁はさらに、今年1月にワクチン接種を完了した人においては、ワクチン効果が16%にまで低下したと報告しています。これらは客観的な検証は受けていないデータであり、さらなる評価が必要です。しかし、これらのデータに基づき、イスラエルでは60歳以上の国民を対象に3回目接種 が開始されました。

実験室でのデータも複数、論文として公開されています。
7月7日に公開されたNew England Journal of Medicine誌の論文では、モデルナ社製やファイザー社製ワクチンを2回接種した人の血液中の中和抗体(ウイルス感染を抑える抗体)の量をはかっています。従来型に比べて、デルタ変異株への中和活性は、両社のmRNAワクチン共に約3分の1に低下しています。カッパ変異株に対しては、従来型の7分の1にまで低下しています。

6月3日に公開されたLancet誌の論文では、ファイザー社製のワクチンを2回接種した人における中和抗体(ウイルスの感染を抑える抗体)の量は、従来型のウイルスに比べるとアルファ型に対しては2.6分の1に低下、デルタ型に対しては、5.8分の1になっています。また従来型ウイルスに対しては1回接種でも多くの人で十分な量の中和抗体が出来るが、デルタ型に対しては2回接種が必要なことを示唆しています。

図1 イングランドにおける変異型の推移
図2 デルタ変異とアルファ変異の2次感染率の比較
図3 デルタ変異の基本再生産数と致死率
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